うさ日記

憂さ晴らしに書くのかもしれません

ツイッター・ウォー

朝起きたら、戦争が始まっていた。

と言っても2020/9/27の話である。

 

正真正銘寝耳に水、青天の霹靂であった。趣味の一つに国際政治についてあれこれ考えるという無益極まるものがあったから、北朝鮮の戦略を調査している人とかアメリカのドクトリンが云々言っている人だとか、そういう思想以前に事実を事実として語り考えられる人をTwitterでフォローしていたわけだが、朝起きたら彼らが驚きとともにアゼルバイジャンアルメニアの「奴らが撃ってきた!戦争だ!」というツイートをRTしていたのだ。Twitterには戦場の映像や避難民の映像が流れてきた。この時もてはやされたドローン兵器の映像も多かった。

 

まず驚きに頭をやられたわけだが、時間が経つにつれ、ツイートから徐々に背後関係やらなんやらが見えてきた。どうもアゼルバイジャンのバックにはトルコがいるらしく、アルメニアは親分であるロシアが講和を仲介してくれることを望んでいるらしい。結果として何度かの停戦違反はあったものの、親分同士の戦争になることはなかった。当事者にとっては失礼な表現だが、日本人である私には何事もなくナゴルノ=カラバフ戦争は一旦の終結を見た。

 

その次にアフガニスタンの戦いがあった。2021年の夏である。以前からアメリカ人が対テロ戦争に飽きていたことは知っていたし、「まぁいい加減撤退するか……」という流れがあったのも知っていた。が、よもや撤退がここまで速やかに現政権の破滅につながるとは!Twitterには現地の戦闘の様子、アメリカの報道官の発表、そしてアフガニスタン政府と軍が如何に腐敗していて汚職まみれかなどが詳細に報告されてきた。兵士の分の給料をちょろまかす為に数を多く報告するなど、今が何世紀か確認したくなるような話が数多くあった。

 

そして初めは「アフガニスタン軍は精強なので独力でタリバンを抑え込める」としていたアメリカは「数ヶ月後には政府は滅ぶ」「1ヶ月後には」「2週間」「来週」とどんどん予想を翻し、そしてその予想は翻されるたびに信憑性を増していった。なんせTwitterには米軍が良かれと思ってアフガニスタン軍に置いていった車両なんかがタリバンに乗り回されている映像すら流れてくるのだ。どう見ても敗色濃厚、負け戦というところだった。

 

ともあれ、これでアメリカの支配力が衰えていることが事実によって証明された。このことはTwitterの目にも明らかだったし、特に反米的な国家にはそう受け止められただろう。

 

そしてウクライナ侵攻が始まる。ロシアがウクライナに侵攻する計画を動かしていることを知ったのは2021/11/22だった。ウクライナ国防省が「来年の1月か2月あたりにロシアが侵攻してくる可能性が高い」との発表をしたのをTwitterで知ったのだ。一瞬安保理常任理事国がそのような暴挙に出るはずがないと正常性バイアスが働きかけたが、「戦争は突然起こりうる」「アメリカが弱っている」ことはその反対に秤を傾けてあまりある重みを持っていた。雪解け前で戦車が機動力を発揮しうる1月か、それとも北京オリンピック閉幕後の2月か……。

 

次第に多くの情報が戦争を示唆し始める。この件についてアメリカは入手した情報を広く開示することで世論や国際社会に訴えかける方法をとったし、一昔前なら国家機密であったはずの衛星画像すら民間人が入手できるので大規模な野戦病院の撮影なども見てとれた。また反対のロシア側からも国境に集結する兵士たちが「戦争に行ってくるよ!」と言って恋人たちとの別れをTikTokに上げたり、列車で輸送される戦車や兵員輸送車を沿線の住民が撮影してアップロードしたりしていた。この時ロシアはあくまでも「予定されていた軍事演習を消化しているに過ぎない」としていたが、病院設備や輸血パックが輸送されていることから実戦を想定していることは明白だった。

 

年が明けると次第に世論もこの問題を取り上げ始めた。彼らはまずウクライナがどこにあるのかから知っていくという周回遅れの有様であったが、まぁ開戦より前に話題になったのは良いことだと思う。

 

そして、予想通り北京オリンピックの閉幕とともに戦争が始まった。2月末まで開戦が伸びたのはアメリカをはじめとしたNATOの積極情報開示の成果だと思うが、戦争までは止められなかった。2022/02/25現在、戦争の行き着く先は見えていない。第三次世界大戦になると言っている人もいるが、これについては懐疑的だ。ロシア単体ではアメリカに勝てないし、中国が加わってもも後10年はアメリカに勝てないと踏んでいる。この2国は現状でも世界を滅ぼすことはできるが、戦争の勝者になるには力不足だろう、というのが見立てである。またロシアと同じく現状変更の意図を持ち軍事力の行使も辞さない中国にとっては台湾がロシアにとってのウクライナに当たるわけだが、今回の教訓を彼らが生かすのは今日明日のことではないだろう。あるいはそれを利用してウクライナの危機を効果的に収めることで中国の意図を断念ないしは後退させられるかもしれない。まぁ後日「楽観的なことだ」と嘲笑われるかもしれないが。

 

今回はナゴルノ=カラバフ戦争からウクライナ戦争までを一連の流れとして、主観的な経緯を書いてみた。歴史は本来一切の切れ目なく連綿と続いていくものであるから、香港の民主化運動やコロナの蔓延から、あるいは2014年のクリミア併合から、いやソ連崩壊やそれ以前から語るべきかもしれないがそういう形は取らなかった。なぜならこれらは私にとって「スマートフォンの上の戦争」だったからだ。あらゆる情報が手のひらの上に流れ込んでくる。嘘もある。誤報もある。だが真実もある。そして何より人の生き死にがかかっている。これが全てこの板切れに集まってくる。初めてテレビ中継された湾岸戦争をテレビゲームのようだと言ってニンテンドー・ウォーと呼んだとかいう話を聞くが、これはまさにタイトルの通りであった。この情報の速さと反比例する心理的距離の遠さがこれからの世界にどう影響を及ぼしていくのか、興味と不安が尽きない。そういう意味でも、新しい時代が始まったのかもしれない。