うさ日記

憂さ晴らしに書くのかもしれません

○分で「100分DE名著」

100分DE名著、というNHKで月曜22:25から放送されている番組がある。その名の通り一冊当たり一回25分×全4回で、アルプスの少女ハイジからロジェ・カイヨワ戦争論に至るまで様々なジャンルの本を読み解くという内容だ。

 

番組は伊集院光さんとアナウンサーさん、そしてそれぞれの本1冊につき1人の講師によって進行される。抜粋した本文の朗読とアニメーション、分かりやすいフリップがより内容の理解を助けてくれるようになっている。

 

…とまぁここまで番組の説明をしてきたわけだが。正直なところ、番組ホームページのリンクでも貼っておけば事足りた気がしてならない。

 

まぁ、それはそれとして。これを読んでいるみなさんの中には私と同じ思いを抱いている人がいると思う。本が読みたい、という思いだ。この思いは極めてシンプルだが、ある意味複雑でもある。本が読みたい、読みたいんだけど…忙しいんだ!…いや、忙しいというのは真実じゃない。時間自体が全くないわけじゃないんだ。例えば、ネットを彷徨ってこんな記事に飛んでくる時間がある。あるけど…とにかく時間がないんだ!といった感じに。

 

そう、結局のところ本を読むのには時間以外に必要なものがある。それは体力であり、気力であり、主体性であり、ともかくそういった前向きな何かだ。これを維持するのは実に難しい。知らない内に、若さとかそういうものと一緒に徐々に失われていく…らしい。まだこれを実体験として痛感する程には老いていないので、或いはその事実を認めたくないのでここでは「らしい」としておくが、それはそれとして。本というのは、当たり前だが貴方が読まなければ読み進められる事はない。つまりはそれが最大の問題点という事だ。

 

そんな需要にこの番組は見事に応えて見せた。映像というのは貴方が飯を食っていようが、洗濯物を干していようが、スマホをいじっていようが勝手に進む。つまり主体的であり続けなくて良い。無論理解するには最低限の主体性は必要だが、本を読むより少なくて済むのは確かだ。また、同じ映像でもインターネット配信でなく地上波というのも良い。一見妙な話だが、いつでも見れ「ない」ほうが見ようという気持ちを維持させるものだ。そもそも、いつでも読める本を自力で読めないからこうなっているわけだし。

 

それだけではない。伊集院光さんの素晴らしい番組進行も特筆に値する。テレビ番組というのは、往々にして遅いという事がある。遅い、というのはテレビが想定している視聴者に合わせているために起こる弊害だ。この意見が偏見に満ち満ちている事は承知の上だが、大抵の場合読書に励もうとする人は一般的な人の平均より物事を理解しようと頭を巡らせる事に慣れている。これは人の脳の処理能力に大差が無いことを鑑みれば、ある意味思考を硬直化させているだけとも取れるが、ここでは良い方に捉えることにする。ただまぁ、誰しも「そんなこたぁ百も承知だからとっとと先を話せ」と思った事があるだろうという話だ。

 

しかし安心して欲しい。この番組においておそらくその心配はない。テレビ番組が許容しうる理解の速度ギリギリを突っ走っている。…などと書くと私が自身の能力を過信しているバカのようで情けないが。実際には私がそう感じるだけで貴方にはそれほどではないかもしれないが、ここで重要なのは私が無能であるか否かではなく、伊集院光さんと、この番組を構成している人が有能である事だ。

 

考えて欲しい。例えば、100分で戦争論が読了し得るだろうか?無理だ。況や理解をや。だから講師の方は本文中から要点、いわば骨子を抜き出してくる。しかし、骨は骨だ。無論身全体よりは量は少ない。だが素材そのままの骨ゆえに「硬い」。理解し難いのだ。そこで伊集院光さんの出番だ。この方は講師の述べた事に対し、つまりこういう事ですかと別の言葉で返してみせる。これは本当に物事を理解している人だから出来ることだ。そして、本当はそんな反駁さえ必要ない程に素早く理解しておられるのだろう。アウトバーンで300km出せるスーパーカーが、日本の高速で法定速度ギリギリを出しているようなものだ。だから講師が「私より伊集院さんの方が理解してるかも知れないなぁ」などと言う事さえある。

 

そして、我々視聴者はその噛み砕かれた骨子込みで視聴する。当然、そのままより遥かに理解しやすい。時として100年、1000年と離れた時代に記された本より、今の私たちに向けて発される言葉の方がすんなり飲み込める。つまり、もののけ姫で腹部を撃たれ弱ったアシタカにサンがジャーキーを噛み砕いて口移しする様に視聴者の貴方に伊集院光さんが…いや、やめておこう。絵面が、アレだ。

 

最後に、もう一つこの番組の素晴らしい所がある。それは、興味のない本の話ばかりだと言う事だ。人は多かれ少なかれ、食わず嫌いをする。好きなものがあれば尚更だ。しかし、出された料理を跳ね除けるほどでもないのではないだろうか。そういう点で、この番組は狂ったフルコースだ。和食も洋食も中華も、それらに分類されない料理も貴方の意思とは無関係に供される。こんなもん別に食いたくもねぇんだがな、と悪態をつきながら貴方は料理を口にする。すると意外や意外、なかなかどうして新しい味わいがある。これに魅力を感じるなら、この番組を見てみるべきだ。

 

以上のような事から、私はこの番組を自信を持ってお勧めできる。興味を持った貴方には是非明日、11/4(月)22:25からの100分DE名著「法華経」第1回を視聴して欲しい。多分、有意義な25分になると思うから。